"不要不急の外出を自粛"の今、自画自賛好きな右寄りの方やキャスターが、「自粛でここまで出かけなくなる日本人はすごいです」と渋谷スクランブル交差点を見ながらコメントしてますが、行きたい店が閉まってるから行かないだけで、店が開いてる商店街やパチンコは普段以上に混雑しているのが現状です。
早く収束させるには、なるべく外出は控え、家で過ごすのがベストです。映画を観るのもいいですが、たまには読書三昧するのもお薦めです。よく、落ち込んでる時は楽しく気軽なのがいいと言う人もいますが、時としてその楽しさが自分とはかけ離れた能天気さや絵空事に感じて楽しめないことがあり、逆にヘビーで深い方が癒してくれる場合もあります。
井上靖の短篇集「補陀落渡海記 井上靖短篇名作集」は、後者に当たりますが、人は皆悩み、恐怖や自然の脅威などを体験し、時を生きていることを感じさせる名著です。
熊野補陀落寺の記録に残る実話を元に、61歳の11月に小舟に乗って西方浄土に旅立たなければならない主人公住職金光坊の恐怖と葛藤を描いた表題作「補陀落渡海記」も必読ですが、その世界に入り込んでしまったのは、1888(明治21)年の磐梯山大噴火を描いた「小磐梯」です。裏磐梯の檜原村へと測量調査に赴いた郡役所の役人の手記というかたちの小説で、磐梯山近辺の異常現象に不吉なものを感じながら調査していくと、「ここから先に入ってはいけない」と気がふれたような老人に出会ったり、動物が逃げまどう姿を目にします。そして、地鳴りや揺れで不安になった住民が、山に向かって「ぶんぬけるんなら、ぶんぬけてみろ」と叫んだ瞬間、火山は大爆発を起こします…。
圧倒される自然の脅威の前に人は何もできないことが、ちょっと寓話的な世界で繰り広げられる名作です。他にも「グウドル氏の手套」「姨捨」「道」など、独自の世界観が味わえる9篇が収録されています。
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